「自分の手がいちばん気楽」が届かない人へ——ひとりで確かめる、その最初の一段
どこを、どのくらいの強さで、どうなれば成功なのか。習慣のない人にとっては、そこが全部わからないまま「気楽なこと」として飛ばされています。神経の側から、強く触る必要がない理由と、力を抜けばいいわけでもない理由を説明します。
米国の女性1,055人を対象にした2018年の調査に、こういう数字があります。特定のひとつの触り方を好むと答えた人が41%。
正解がひとつあるのではなく、人によって別々のひとつがある、ということです。同じ調査では、挿入だけでオーガズムに達するのに十分と答えた人は18.4%で、残りの人はクリトリスへの刺激が必要か、あるとより良いと答えています。
ここから言えるのは、これは当てる作業ではなく、自分のひとつを見つける作業だということです。ただし——見つけ方が書かれた場所が、ほとんどありません。このサイトの他の記事も、痛みや乾きのように、すでに困っている人に向けて書かれていました。まだ何も始まっていない人が立つ場所が、抜けています。この記事はそこを埋めます。
「自分の手がいちばん気楽」は、習慣がある人の話
性の情報でよく見る一文があります。いちばん気楽なのは自分の手だ、と。
これはすでにやっている人にとっては正しい説明です。道具も相手も要らず、失敗のコストがない。けれど習慣のない人にとって、この一文は最大のハードルを「やって当然のこと」として飛び越えています。
やっていない人が止まる場所は、分解するとこうなります。
| 止まる場所 | 中身 |
|---|---|
| どこを | 構造を知らない。図で見たことはあっても、自分のからだの上での位置と結びついていない |
| どのくらいの強さで | 強くしないと届かないのか、弱いと足りないのか、基準がない |
| どうなれば成功か | 到達点が「オーガズム」しか提示されていないので、そこに行かないと失敗に見える |
| そもそも気が進まない | その気にならないと始められないと思っている |
4つとも、知識で埋まる部分があります。順に見ていきます。
どこを——外から見えているのは、全体の一部です
2005年の解剖学のレビューは、磁気共鳴画像と解剖から、クリトリスが外に見えている部分だけの器官ではないことを示しました。全体は逆さのウィッシュボーン(鎖骨に似た二股)のような形をしていて、全長でおよそ9〜11cm。表面に見えているのは、その先端にあたるごく一部です。
これが分かると、「どこを触るのか」という問いの立て方自体が変わります。点を正確に当てる作業ではありません。 構造の大部分は皮膚の下にあり、外から触れられる範囲はその上を覆う面です。だから探すのは座標ではなく、面のどのあたりが自分に合うかになります。
自分のからだの上での位置を確かめる方法も、最初の一段としては「触る」より前に置けます。見ることです。手鏡でかまいません。触れずに、位置関係だけを確認する。これを別の日にしてしまってもよくて、その日はそれで終わりにできます。
どのくらいの強さで——これは速度の話で、強さの話ではありません
2009年に発表された研究が、快い触覚に対応する神経線維を特定しています。皮膚には無髄のC触覚線維という、細くて伝達の遅い線維があります。この線維は、秒速1〜10cmで撫でられたときに最も強く発火しました。そして参加者が最も快いと評価した速度も、その範囲でした。
もうひとつ重要なのは、速い伝達を担う有髄線維には、この対応がなかったことです。つまり快さと速度の結びつきは、感想ではなく線維の種類のレベルで決まっている部分があります。
秒速1〜10cmというのは、実際にやってみるとかなりゆっくりです。1秒で数センチ。強く押す必要が、神経の側にありません。 強さが足りないのではないかという不安は、ここでかなり解けます。
(この研究が調べたのは前腕の皮膚で、性器の皮膚で同じ速度が最適だと確かめたわけではありません。ただ、快い触覚を専門に運ぶ線維が存在し、それが速度に反応するという枠組み自体は、触れ方を考えるときの土台になります。)
力を抜けばいい、でもありません
「緊張していると感じにくい」はよく言われます。半分正しくて、半分は逆効果です。
2012年の研究は、交感神経の活動と性器の反応の関係を測って、逆U字を報告しました。活動が低すぎても、高すぎても、反応は下がる。つまり最適な水準が真ん中にあるということです。完全に弛緩した状態が最良ではありません。
もう一方に、2006年の研究があります。参加者に中立的な——性とは無関係の——注意課題を与えるだけで、性器の反応も主観的な興奮も低下しました。注目すべきは、性的な問題を持つ人と持たない人で、この低下に差がなかったことです。
この2つを並べると、こうなります。気が散れば誰でも下がる。でも「リラックスしなきゃ」と自分を管理するのも、それ自体が注意の負荷になる。
だから、うまくいかない日に「集中できない自分」を責める材料は、研究の側にはありません。静かで邪魔の入らない時間を確保するのは、精神論ではなく注意の負荷を物理的に減らす手当てです。
「うまくいったかどうか」を、決めないでおく
到達点を先に決めると、それ以外が全部失敗になります。ここは意識的に外せます。
2016年の質的研究が、ひとりの快とパートナーとの快で、人が何を中心に語るかを比べています。パートナーとの快で挙がったのは信頼・与えること・近さ。ひとりの快の中心は「自律」でした。
つまりこれは、誰かのための予習ではありません。 「相手に伝えられるようになるための練習」として語られることが多いのですが、当事者が語る中身はそうなっていない。自分で決められること自体が、この経験の核にあります。
冒頭の数字に戻ります。特定のひとつの触り方を好む人が41%——探しているのは正解ではなく、自分のひとつです。今日それが見つからなくても、範囲が少し狭まっていれば、それは進んでいます。
気が進まないときのこと
「その気にならないと始められない」も、外せる前提のひとつです。
2004年の質的研究(80人への聞き取り)は、性的な関心が興奮に先行することもあれば、後から追いついてくることもあると報告しています。順番はひとつではありません。始めてから気持ちがついてくる筋道は、実際に語られています。
ただし、これを「義務にすればいい」と読み替えないでください。課題にした瞬間に、上の逆U字の右側(緊張が高すぎる側)に振れます。 やらない日があっても構わない、という前提とセットでのみ成り立ちます。
痛みがあるときは、ここで止まってください
触れて痛みがある、指が入らない、力が入って進めない——このどれかに当てはまるなら、この記事の範囲を超えます。
厚生労働省研究班監修のヘルスケアラボは、性交痛の原因として炎症・感染、乾燥、骨盤内の疾患、心理的要因を並べています。原因が特定できる身体の現象であり、慣れの問題ではありません。挿入しようとすると筋肉が収縮して入らない状態には腟けいれんという名前がついていて、確立した対処があります(痛みの記事のD型に書きました)。
婦人科では「挿入時に痛みがある」と伝えれば通じます。症状の診察なので、通常の保険診療です。
学べる領域です、ただし控えめに
最後に、この分野の研究状況について正直に書いておきます。
2022年に発表された研究が、快感の選好に関する知識を扱うオンライン教材について、870人の成人女性で4週間の前後比較を行い、知識と体験の快さの両方に大きな向上を報告しています。学習で変わりうる領域だという方向は示されています。
ただしこの研究は、対照群を置かない単群の前後比較で、教材の関係者が著者に含まれます。「効果が証明された」とは言えません。 予備的な結果として読むのが正確です。
数字で言えるのはそこまでで、この記事が実際に手渡せるのは、もっと地味なことです——強く触る必要はないこと、力を抜けばいいわけでもないこと、到達点を決めなくていいこと。 この3つが分かっていれば、最初の一段は今の場所からでも踏めます。
参考にした資料
- Herbenick ら(2018)女性の性器接触・快・オーガズムの経験(J Sex Marital Ther)
- O'Connell ら(2005)クリトリスの解剖(J Urol)
- Cleveland Clinic「Clitoris」(市民向け解説・全体構造と大きさ)
- Löken ら(2009)快い触覚を符号化する無髄線維(Nature Neuroscience)
- Lorenz ら(2012)交感神経活動と性器反応の逆U字関係(Psychophysiology)
- Salemink ら(2006)注意の負荷が性器反応と主観に与える影響(Arch Sex Behav)
- Goldey ら(2016)ひとりの快とパートナーとの快の定義(Arch Sex Behav)
- Graham ら(2004)女性の性的興奮の質的研究(Arch Sex Behav)
- Hensel ら(2022)オンライン介入の実行可能性と予備的有効性(J Sex Res)
- 女性の健康推進室ヘルスケアラボ「性交痛」(厚生労働省研究班監修)